そして、ナベはトラを舐めた
血だらけで、動かないトラを舐め続けた・・
まるで、生まれたての子猫をキレイにしてやるように
いつまでも、舐めた
でも、どんなにナベが一生懸命、舐めても
トラの目が開く事は二度と、無かったんだ・・・
それから、何年か僕の家で、平和に暮らした後、
ナベは突然、僕達の前から姿を消してしまった
パパはナベが帰ってくるのをずっと、待っていたけど
ナベはとうとう、帰ってこなかった
長い、長い、時が経ち、僕は大人になって
パパはおじいちゃんになった
僕は僕の子供を思う度、ナベのことを思いだす
ナベにとって、子供がどんなに大事だったか
今なら、分かる気がする
あの、大きな犬に向かっていった時のナベの気持ちも・・
今パパの家には、ナベの子供の、子供の、子供のヤブがいる
ヤブは驚く位、見た目はナベにソックリだ!
・・・でも、やっぱり、ナベとは違う
ナベはパパにとって世界でたった一匹の猫だったんだね
誰かが、「猫は死ぬ前に家出する」って言ってたけど
ナベはそうじゃないと思う
僕にも、パパにもその理由は分からないけど
きっとナベにとっては、大事なことだったんだろう
「ナベはもう帰ってくることは無い」
それは分かっているけど、パパは今でもナベが
帰ってくるのを、心のどこかで待っている
パパのナベの話 いつか僕の子供がもっと
大きくなったら、聞かせてあげたいんだ
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